令和4年度 SPring-8 一般課題(産業分野) 実施報告書 (2022A)
目次

1. はじめに
2. 課題募集制度の概要
3. 成果公開の考え方
4. 実施状況
5. 産業利用分野の利用動向
6. 報告書
* 送付を希望される方は、連絡先(氏名、所属、〒住所、E-mail)をご記入の上、 事務局 support@spring8.or.jp までE-mailでご連絡ください。

はじめに

 本報告書は2022A期に産業利用分野で審査・採択された一般課題(以降、一般課題(産業利用分野)と呼称)として実施された課題の実施状況の報告を目的として、SPring-8利用研究成果集としての審査を行わなかった課題の報告書を収録したものである。

本報告書が対象としている課題募集制度の概要
    一般課題(産業利用分野)
     一般課題(産業利用分野)の課題とは、課題申請の際に産業利用分野(I)での課題審査を希望した成果非専有の一般課題(課題審査は課題審査委員会産業利用分科会が行う)である。なお、実験責任者もしくは共同実験者に民間企業もしくは、それに準じる機関に所属する者が含まれていることを申請要件としている。民間企業に準ずる機関とは、民間企業からの委託による試験・研究・開発を事業に含んでいる機関と定義している。また、地方自治体が設置している公設試験場や地方独立行政法人等(○○県工業技術センター)は、民間企業に準ずる機関から除外している。2022A期課題募集時点での一般課題(産業利用分野)は、3本の産業利用ビームラインI(BL19B2)、II(BL14B2)、III(BL46XU)を中心に運用されており、その特徴的な制度は以下の6項目である。

    1. 成果非専有の一般課題の申請については一般課題(産業利用分野)のみ受付けている3本の産業利用ビームラインは、半期ごとに3回(1期、2期、3期)、年6回の課題募集を行う。その他のビームラインの募集は他分野の一般課題と同様に課題募集は年2回である。(産業利用ビームラインを指定した申請であるものの、審査希望分野が他分野の課題は申請者の希望にかかわらず産業利用分野で審査する)。*注1)
    2. 新規利用拡大の観点から課題審査において利用経験を考慮する。
    3. 民間企業利用拡大の観点から課題審査において所属機関を考慮する。
    4. 課題実施後約2~4か月以内に所定の書式の産業利用課題実施報告書を提出する。なお、この報告書はSPring-8利用研究成果集として審査を受けることも可能である。
    5. 全採択課題に担当コーディネーターを配置する。
    6. 科学技術的妥当性に関する審査は
      (1)産業基盤技術としての重要性および発展性
      (2)社会的意義および社会経済への寄与度の観点を重視して実施する
      に重点をおいて実施する。

      *注1)産業利用ビームライン3本でも大学院生提案型課題及び成果専有課題、成果公開優先利用課題は受付けている。大学院生提案型課題は一般課題(産業利用分野)と同様の審査が行われる。

    ただし本年度より、現在進められているSPring-8のビームライン再編において共用ビームラインにおける産業利用推進の方針が、これまでの産業利用ビームラインを軸とする方針から共用ビームライン全体を活用する方針へと変更されることになり、それに伴って一般課題(産業利用分野)に関連するSPring-8の共同利用運用も以下のように変更されることとなった。

    • 産業利用ビームラインのうちBL46XUは2022A期よりHAXPES専用ビームラインに変更となり、同ビームラインで運用されていた多目的6軸X線回折装置はX線回折・散乱Iビームラインとして改造されたBL13XUに移設されて2022A期後半から同ビームラインで運用再開した。
    • 上記ビームライン再編に伴い産業利用ビームラインの名称は2022年5月1日より以下のように改称された。
      > BL19B2:産業利用I → X線回折・散乱II
      > BL14B2:産業利用II → XAFS II
      > BL46XU:産業利用III → HAXPES II
    • 産業利用ビームラインで運用されていた年6回募集は2022B期から、BL14B2、BL19B2、BL46XUの3ビームラインから、BL01B1、BL02B1、BL02B2、BL09XU、BL13XU、BL47XU(一部*注2)が加わって計9ビームラインで実施されることとなった。
    • 旧産業利用ビームラインBL14B2、BL19B2、BL46XUの成果非専有の一般課題の申請は、一般課題(産業利用分野)以外の課題も受付けることとなった。この産業利用分野以外の受付は、BL46XUは2022A期から、BL14B2、BL19B2は2022B期から開始。

    *注2)BL47XUのA2期、A3期、B2期、B3期の課題募集は、募集マシンタイムは6シフトのみで、募集分野は産業利用分野のみ。

    上記の現状であるが、本報告書の実施課題が申請された2022A期の課題募集の時点ではBL19B2、BL14B2、BL46XUの名称は産業利用ビームラインであったので、ここではこの3ビームラインを産業利用ビームラインと呼称する。

本報告書が対象としている課題の成果公開の考え方

 成果の公開については、他の成果非専有の一般課題と同様に学術誌上への論文掲載(博士論文も含む)もしくはSPring-8利用研究成果集への採録による成果公開が求められる。この産業利用課題実施報告書の提出は「成果の公開」とは認定されないが、これらの報告書は著者からの申し出により課題ごとにSPring-8利用研究成果集としての審査を受けることが可能である。SPring-8利用研究成果集としての審査を受けない実施報告書は、JASRIコーディネーター等による校閲を経て課題実施期が終了して約6か月後に出版・公開されるが、それ以外はSPring-8利用研究成果集としての掲載をもって公開とする。


実施状況

 以下に令和4年度2022A期の一般課題(産業利用分野)の応募・採択結果を表1にまとめる。


  1. 応募・採択結果 一般課題(産業利用分野)
    表 1.応募時期及び研究機関別一般課題応募・採択結果
    募集時期 機関分類
    応募数*
    採択数
    採択率(%)
    第1期募集
    学官
    26
    12
    46.2
    産業界
    19
    12
    63.2
    合計
    45
    24
    53.3
    第2期募集
    学官
    14
    14
    100.0
    産業界
    3
    3
    100.0
    合計
    17
    17
    100.0
    第3期募集
    学官
    15
    8
    53.3
    産業界
    2
    2
    100.0
    合計
    17
    10
    58.8
    総計
    79
    51
    64.6
    応募数と採択数には、一般課題と同時に審査される大学院生提案型課題(応募数 A1期 8課題、A2期 5課題、A3期 7課題 / 採択数 A1期 4課題、A2期 5課題、A3期 4課題)を除く。12条課題として扱われるJASRI職員が実験責任者の一般課題(応募数 A1期 4課題、A2期2課題、A3期 4課題 / 採択数 A1期 1課題、A2期2課題、A3期 1課題)を含む。

     昨年度同時期の2021A期の課題実施状況を比較すると、まず応募課題数は昨年度と同数の79課題の応募があった。ただし、A1期に応募が若干集中しており、採択率は昨年度2021A期の82.3%に対し、今季2022A期は64.6%と減少している。このA1期に応募が集中した点については、BL46XUの多目的6軸X線回折計が、年2回募集運用でこの2022A期では課題募集がA1期のみであるBL13XUに移設されたことが影響していることが理由の一つとして考えられる。なお、一般課題(産業利用分野)における産業界の課題数比率は、応募課題数については昨年度2021A期の29.1%に対し、今期2022A期は30.3%と同水準で推移しており、採択課題数については昨年度2021A期の27.7%に対し、今期2022A期は33.3%と増加している。

  2. SPring-8利用研究成果集としての審査
     前記のとおり2011B期より成果公開の扱いが変更になったため、実験責任者の希望に応じて重点産業利用報告書をSPring-8利用研究成果集(現在はSPring-8/SACLA利用研究成果集)として査読審査を受けて公開文書として扱うことも可能とした。放射光施設横断産業利用課題及び産業利用分野の一般課題も同様で、SPring-8/SACLA利用研究成果集として審査を受ける公開文書とすることができる。SPring-8/SACLA利用研究成果集への公開は査読審査が終了し成果審査委員会での承認後となるため、SPring-8/SACLA利用研究成果集に投稿予定の課題は採録していない。このため、今回は2022A期の採録対象課題 47課題のうち43課題を掲載する。また、2021B期の報告書発行後に対象課題でSPring-8/SACLA利用研究成果集に掲載された11課題の報告書を付録として掲載する。

産業利用分野の利用動向
     図1は産業利用ビームラインが現在の3本体制になった2008A期以降の産業界ユーザーの実施課題の推移である。一昨年度の2020A期で実施課題数が突出しているのはコロナ感染症対策の影響で変則的な募集スケジュールとなり、通年で2020A期となっていることを反映していることに注意されたい。この新型コロナウィルス感染症流行前後の産業界ユーザーの利用動向を同時期のA期の利用に注目して見てみると、流行前の2019A期よりも昨年度、今年度で増加していることがわかる。特に産業利用ビームライン以外のビームラインでの増加がこの傾向を牽引しており、昨年度2021A期の51課題に対し、今期の2022A期は65件と約27%増加している。近年の産業界が成果専有課題を利用する傾向は相変わらず強く、2022A期の成果専有課題利用比率は約7割、産業利用ビームラインでは約8割近くとなっている。なお、2019A期から開始した産業利用ビームラインで実施する産業利用準備課題は、今年度から成果専有時期指定課題の時間単位利用として運用されることとなり、実施ビームラインは一部ビームラインを除いた産業利用ビームライン以外の共用ビームラインでも利用可能となった。この2022A期の成果専有時期指定課題の時間単位利用は2課題の実施があった。


    図1. 共同利用実験として実施された産業界課題の実施数推移


    報告書
    2022A1633
    Ga添加Nd-Fe-B系焼結磁石中のGa置換サイトと置換量を決定する試み 藤川 佳則 TDK (株)
    2022A1642
    時間分解X線イメージングによるCu-Sn合金の凝固その場観察 西村 友宏 (株)神戸製鋼所
    2022A1644
    軟X線発光分光分析を用いたりん酸鉄皮膜構成元素の化学状態解析 福士 英一 日本パーカライジング(株)
    2022A1645
    高分解能観察を利用した銅合金凝固時のデンドライト溶断現象のその場観察 小森 康平 (株)神戸製鋼所
    2022A1647
    複合的な美容施術を受けたダメージ毛髪のタンパク質二次構造解析 馬場 淳史 (株)ミルボン
    2022A1649
    電極/固体電解質界面の解明 入山 恭寿 名古屋大学
    2022A1650
    保湿剤の適用による皮膚角層の構造変化に基づく作用機序の解明~保湿剤を併用した際の相乗効果の検証~ 村島 健司 阪本薬品工業(株)
    2022A1652
    In situ 極小角X線散乱測定による温度変化に伴うドキソルビシン封入リポソームの形態変化メカニズムの解明 東 顕二郎 千葉大学
    2022A1653
    有機絶縁材料の化学構造を光電子顕微鏡で分析可能にする良導電薄膜の製膜条件の確立 田路 智也 JSR(株)
    2022A1654
    無機ペロブスカイト太陽電池の高効率化に向けた指針策定 柴山 直之 桐蔭横浜大学
    2022A1655
    角度分散硬X線光電子分光によるNi-Cr-Fe系合金上酸化膜の構造解析 西原 克浩 日本製鉄(株)
    2022A1657
    硬X線光電子分光法を用いたリチウムイオン電池用シリコン系負極へのマチュレーション処理に関する研究2 駒場 慎一 東京理科大学
    2022A1658
    高圧電線における電気トリーの拠点となる侵入異物の非破壊分析 伊藤 桂介 宮城県産業技術総合センター
    2022A1661
    日本酒の小角および超小角放射光散乱測定によるナノレベルでの成分と風味との相関解明 蟹江 澄志 東北大学
    2022A1662
    非破壊CT-XRD連成法によるセメント硬化体中の材料劣化が解体時の破壊メカニズムに与える影響の解明 髙橋 駿人 東京理科大学
    2022A1663
    フッ化物イオン挿入脱離時におけるペロブスカイト型酸フッ化物正極材料の電子・局所構造解析(2) 内山 智貴 京都大学
    2022A1664
    X線光子相関分光法を用いた米飯のナノスケール構造とそのダイナミクスの解明 大元 智絵 味の素(株)
    2022A1665
    Operando X線全散乱測定によるリチウム二次電池電解液の構造解析 高井 智明 (株)SOKEN
    2022A1666
    イオン伝導性を有する配位高分子結晶及びガラスの局所構造解析 高橋 一輝 (株)デンソー
    2022A1669
    高分子電解質膜電解セルを用いたin-situ XAFSによるγ-MnO2触媒の水の電解特性評価 足立 精宏 理化学研究所
    2022A1767
    温度可変XAS計測システムを用いた高反応性ニッケル(III) 錯体のin situ局所構造解析 植竹 裕太 大阪大学
    2022A1768
    Li2O-Al2O3-SiO2ガラスにおける核生成過程のその場XAFS測定 梶原 貴人 AGC (株)
    2022A1769
    原子配列を制御したmetal-Nxサイト含有炭素材料における金属局所構造の分析 丸山 純 大阪産業技術研究所
    2022A1770
    Liイオン電池正極材料
    0.5Li2MnO3-0.5Li(MnxNiyCoz)O2の電極特性および充放電過程の平均・局所構造および電子構造のレート依存
    井手本 康 東京理科大学
    2022A1771
    マグネシウム二次電池用正極材料
    MgCo2-xMnxO4-Mg(Mg0.33V1.67-yNiy)O4系固溶体の放充電サイクルに伴う電子・局所構造の変化
    井手本 康 東京理科大学
    2022A1772
    XANESによるMo含有TiO2の局所構造解析 水垣 共雄 大阪大学
    2022A1773
    X線回折法による水電解触媒のオペランド構造解析(1) 内山 智貴 京都大学
    2022A1775
    ダイヤモンドメーカーに製造委託した巨大負熱膨張材料BiNi1-xFexO3の熱膨張特性評価 Ⅷ 東 正樹 東京工業大学
    2022A1776
    高原子価イリジウム(>4+)の合成とXAS分光法による特性評価 足立 精宏 理化学研究所
    2022A1777
    ペロブスカイト結晶の光安定性の調査 柴山 直之 桐蔭横浜大学
    2022A1778
    HAXPES による高性能透明導電膜と他材料との界面結合状態の解析 野本 淳一 産業技術総合研究所
    2022A1779
    電子材料用熱硬化性樹脂材料/配線接続用金属間の接着界面解析 首藤 靖幸 住友ベークライト(株)
    2022A1781
    酸素脱離させたLi過剰系材料の結晶構造解析 松永 利之 京都大学
    2022A1782
    CO2直接 Fischer–Tropsch 合成効率向上を目指したFeおよびCo系触媒のバルクの電子構造の効果の解明 田代 啓悟 成蹊大学
    2022A1783
    Si基板上a-C:H膜のX線散乱による構造解析 光成 正 東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(株)
    2022A1811
    CO2メタン化反応生成ガス中の水素低減を目的としたエタノール脱水-水素化反応に用いるPd触媒のXAFS測定(1) 内山 智貴 京都大学
    2022A1813
    一次元銅(I) 配位高分子の加熱融解により得られた液体中における銅イオンの配位数分析 田部 博康 京都大学
    2022A1820
    固体高分子水電解触媒の硬X線光電子分光法による活性化‧劣化機構解明(1) 内山 智貴 京都大学
    2022A1821
    鉄系ペロブスカイト類縁酸化物正極のフッ化物イオン挿入脱離に伴う結晶構造変化の解析 山本 健太郎 奈良女子大学
    2022A1822
    無機ペロブスカイト結晶の結晶化過程の調査 柴山 直之 桐蔭横浜大学
    2022A1824
    ポリオキシエチレンセカンダリーアルキルエーテル界⾯活性剤のSAXSを用いた相挙動の解明(5) 吉村 倫一 奈良女子大学
    2022A1825
    XAFS測定による金属吸着材料の局所構造解析(2) 遠藤 克 (株)ダイセル
    2022A1826
    高分子型界面活性剤系食品添加物製剤の消化酵素による構造変化 小林 純也 太陽化学(株)


    附録 “SPring-8/SACLA利用研究成果集 Section B”より転載

    Volume 10 No.3(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/springresrep/10/3/_contents/-char/ja
    2011B1846
    Dy-Fe-B 薄膜の硬X線光電子分光と Dy 3d XPS の偏光依存性測定の試み 今田 真 立命館大学
    2018A1027
    熱分解過程にある木質バイオマス内部のリアルタイム可視化と重量変化の同時計測手法の確立 長谷川 和彦 秋田県立大学大学院
    2018A1740
    放射光X線CTによる水素/空気二次電池空気極の内部構造観察[2] 土井 修一 富士通(株)
    2018B1580
    In-situ USAXS による非溶媒誘起相分離ダイナミクスの構造解析 岩間 立洋 旭化成(株)
    2019B1712
    エネルギー分散型X線回折プロファイル解析システム構築のための鉱物データへの鉱物の形状・混合の影響の把握 人見 尚 (株)大林組

    Volume 10 No.4(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/springresrep/10/4/_contents/-char/ja
    2017A1596
    宇宙環境を模擬した原子状酸素の曝露によるカーボンナノチューブ撚糸の損傷状態のHAXPESによる電子構造観察 人見 尚 (株)大林組
    2018A1755
    C60(111)表面上ペンタセン薄膜界面における結晶構造評価 鶴田 諒平 筑波大学
    2019A1616
    マイクロビームXAFSによる(K,Na)NbO3粒子に固溶したMnの価数評価 西村 仁志 (株)村田製作所
    2021B1883
    加湿乾燥条件の異なる固形化粉ミルク構造のX線CTでの数値化 田村 明 (株)明治

    Volume 10 No.5(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/springresrep/10/5/_contents/-char/ja
    2019B1819
    X 線吸収分光法による白金コアシェル触媒の構造解析 井上 秀男 石福金属興業(株)
    2021B1710
    ヒト毛髪におけるグリオキシル酸の分布に対する切断条件の影響 宇山 允人 (株)資生堂


    発 行 日: 令和 5 年 2 月 20 日
    編集・発行: 公益財団法人 高輝度光科学研究センター



    「令和4年度 SPring-8 一般課題(産業分野)実施報告書 (2022A)」送付を希望される方は、 連絡先(氏名,所属,〒住所,E-mail)をご記入の上、事務局 support@spring8.or.jp までE-mailでご連絡ください。