令和6年度 SPring-8 一般課題(産業分野) 実施報告書 (2024A)
目次

1. はじめに
2. 課題募集制度の概要
3. 成果公開の考え方
4. 実施状況
5. 産業利用分野の利用動向
6. 報告書
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はじめに

 本報告書は2024A期に産業利用分野で審査・採択された一般課題(以降、一般課題(産業利用分野)と呼称)として実施された課題の実施状況の報告を目的として、SPring-8利用研究成果集としての審査を行わなかった課題の報告書を収録したものである。

本報告書が対象としている課題募集制度の概要
    一般課題(産業利用分野)
     この「一般課題(産業利用分野)」の課題とは、成果非専有の一般課題のうち、課題申請の際に産業利用分野での課題審査を希望した課題(課題審査は課題審査委員会 産業利用分科会が行う)を示す。この課題の申請については、実験責任者もしくは共同実験者に民間企業、または産業界に準ずる機関に所属する者が含まれていることを申請要件としている。産業界に準ずる機関とは、公設試験場及び民間企業からの委託試験・研究を主な事業とする財団/社会法人と定義している。その他に、本制度は以下の5項目の特徴を持つ。

    1. 新規利用拡大の観点から課題審査において利用経験を考慮する。
    2. 民間企業利用拡大の観点から課題審査において所属機関を考慮する。
    3. 課題実施後約2~4か月以内に所定の書式の産業利用課題実施報告書を提出する。なお、この報告書はSPring-8利用研究成果集として審査を受けることも可能である。
    4. 全採択課題に担当コーディネーターを配置する。
    5. 科学技術的妥当性に関する審査は
      (1)産業基盤技術としての重要性および発展性
      (2)社会的意義および社会経済への寄与度
      に重点をおいて実施する。

    なお、2022A期まで産業利用分科会を主審査分科会としていた旧産業利用ビームラインのBL14B2(現XAFS II)、BL19B2(現X線回折・散乱 II)、BL46XU(現HAXPES II)のみで行っていた年6回募集注1は、2022B期からBL01B1、BL02B1、BL02B2、BL09XU、BL13XU、BL47XU(一部注2)を加えた計9ビームラインにおいて、産業利用分科会審査の課題以外にも拡大して実施されることになった。さらに、上記の3本の旧産業利用ビームラインの課題申請は、産業利用分科会審査の課題以外も2022B期から受け入れることになった。これにより「4.実施状況」で後述するように、これまでこれらの旧産業利用ビームラインを利用することを主目的として産業利用分科会の審査に申請していた学官のユーザーの課題申請が他の学術系分科会への申請にシフトした。この事情を背景として、2023A期よりこの産業利用分科会の審査基準を、より産業界の価値基準に特化する方向に強化した。具体的には、科学技術的妥当性に関する審査の審査基準(1)「産業基盤技術としての重要性および発展性」の観点を、特にその申請課題に関連する「企業」にとって課題で得られる成果がどのような価値があるかに重点を置くこととした。

    *注1)一般課題(産業利用分野)だけでなく大学院生提案型課題及び成果専有課題、成果公開優先利用課題も受付。
    *注2)BL47XUのA2期、A3期、B2期、B3期の課題募集は、募集マシンタイムは6シフトのみで、募集分野は産業利用分野のみ。

本報告書が対象としている課題の成果公開の考え方

 成果の公開については、他の成果非専有の一般課題と同様に学術誌上への論文掲載(博士論文も含む)もしくはSPring-8利用研究成果集への採録による成果公開が求められる。この産業利用課題実施報告書の提出は「成果の公開」とは認定されないが、これらの報告書は著者からの申し出により課題ごとにSPring-8利用研究成果集としての審査を受けることが可能である。SPring-8利用研究成果集としての審査を受けない実施報告書は、JASRIコーディネーター等による校閲を経て課題実施期が終了して約6か月後に出版・公開されるが、それ以外はSPring-8利用研究成果集としての掲載をもって公開とする。


実施状況

 以下に令和6年度2024A期の一般課題(産業利用分野)の応募・採択結果を表1にまとめる。


  1. 応募・採択結果 一般課題(産業利用分野)
    表 1.応募時期及び研究機関別一般課題応募・採択結果
    募集時期 機関分類
    応募数*
    採択数
    採択率(%)
    第1期募集
    学官
    6
    3
    50.0
    産業界
    7
    4
    57.1
    合計
    13
    7
    53.8
    第2期募集
    学官
    1
    1
    100.0
    産業界
    3
    2
    66.7
    合計
    4
    3
    75.0
    第3期募集
    学官
    2
    2
    100.0
    産業界
    2
    1
    50.0
    合計
    4
    3
    75.0
    総計
    21
    13
    61.9
    応募数と採択数には、一般課題と同時に審査される大学院生提案型課題(応募数:A1期 0課題、A2期 2課題、A3期 0課題 / 採択数:A1期 0課題、A2期 2課題、A3期 0課題)を除く。

     昨年度同時期の2023A期の課題実施状況を比較すると、まず応募課題数は21課題で、2023A期の33課題の64%に減少している。機関分類の内訳を見ると学官が9課題、産業界(企業)が12課題で、2023A期の学官16課題、産業界17課題と比較すると、産学ともに減少している。この状況は、学官のユーザーについては産業利用分科会審査の申請要件である「共同実験者に民間企業もしくはそれに準ずる機関が含まれること」という制約のない、それ以外の分科会審査への申請にシフトしたこと、産業界ユーザーについては後述の図1のSPring-8の産業界ユーザーの利用動向で示されているように、産業界ユーザーのSPring-8利用が成果専有利用にシフトしているという状況を反映していると考えられる。採択率は昨年度2023A期の72.7%に対し、今期の2024A期は61.9%と若干下がっている。

  2. SPring-8利用研究成果集としての審査
     前記のとおり2011B期より成果公開の扱いが変更になったため、実験責任者の希望に応じて重点産業利用報告書をSPring-8利用研究成果集(現在はSPring-8/SACLA利用研究成果集)として査読審査を受けて公開文書として扱うことも可能とした。放射光施設横断産業利用課題及び産業利用分野の一般課題も同様で、SPring-8/SACLA利用研究成果集として審査を受ける公開文書とすることができる。SPring-8/SACLA利用研究成果集への公開は査読審査が終了し成果審査委員会での承認後となるため、SPring-8/SACLA利用研究成果集に投稿予定の課題は採録していない。このため、今回は2024A期の採録対象課題中12課題と採録対象ではないが提出のあった6課題の報告書を掲載する。また、2023B期報告書発行後に対象課題でSPring-8/SACLA利用研究成果集に掲載された15課題の報告書を付録として掲載する。

産業利用分野の利用動向
     図1はSPring-8の共同利用が開始された1998年からの利用期毎の産業界ユーザーの実施課題数の推移である。成果非専有利用(青)と成果専有利用で分類して示しており、成果専有利用については成果専有課題(時期指定、産業利用準備課題も含む)(赤)と成果専有測定代行課題(橙)に分類している。黒線で示しているのは全実施課題数に対する産業界ユーザーの実施課題数比率である。この産業界ユーザーの実施課題数比率は2005B期に20%を超えた後、だいたい同程度の水準を維持している。しかしながら、この間に利用形態は大きく変わっており、2005B期には87%が成果非専有利用であったが、その後成果専有利用へのシフトが進み、今期の2024B期には83%が成果専有利用である。この成果専有利用へのシフトを牽引したのが2009年度から開始した成果専有測定代行課題で、2013Aから2018B期にかけて成果専有利用のうち約半分を占めている。近年ではさらにこの成果専有測定代行課題以外の成果専有利用が増加傾向にあり、2024A期ではこの成果専有測定代行課題以外の利用が90件である(成果専有利用の内の約63%)。


    図1. 共同利用で産業界ユーザーが実施した課題の実施数推移

    報告書
    2024A0206
    X線ラミノグラフィーを用いた Zn - 11%Al - 3%Mg - 0.2%Si めっき組織の非破壊構造解析 吉住 歩樹 日本製鉄(株)
    2024A0207
    結像型X線顕微鏡法を用いた Zn - 6%Al - 3%Mg めっき鋼板の非破壊構造解析 吉住 歩樹 日本製鉄(株)
    2024A0208
    放射光X線ラミノグラフィーによるスポット溶接鋼板の非破壊観察 吉住 歩樹 日本製鉄(株)
    2024A0209
    放射光X線イメージングを用いたコンクリート中鋼板の非破壊観察 吉住 歩樹 日本製鉄(株)
    2024A1122
    ポリグリセリンを主骨格にもつ界面活性剤の会合体構造と可溶化性能の相関解明3 村島 健司 阪本薬品工業(株)
    2024A1162
    放射光X線CTを用いたCFRP積層板の静的曲げ負荷中に生じる損傷挙動の評価 鶴田 秀樹 (株)IHI
    2024A1201
    オペランドX線蛍光分光による燃料電池セリウムイオンラジカルクエンチャーの発電中動的挙動の解析 折笠 有基 立命館大学
    2024A1361
    赤外顕微鏡による脱色処理毛髪のタンパク質二次構造解析 木村 洋則 (株)ミルボン
    2024A1482
    皮膚角層内の水分子の浸透挙動の解析 中沢 寛光 関西学院大学
    2024A1515
    無花粉スギ品種開発に向けた小角散乱によるスギ接線壁ミクロフィブリル配向評価 廣沢 一郎 (公財)佐賀県産業振興機構
    2024A1575
    口腔内崩壊錠(OD錠)の崩壊機序の解明 渡邉 紘介 (株)ミルボン
    2024A1655
    毛髪の糖酸化に伴う内部構造の変化 安 鋼 コタ(株)
    2024A1666
    ジチエノベンゾ[d]イミダゾール骨格を有する半導体ポリマーの開発と非フラーレン型有機薄膜太陽電池への応用 三木江 翼 広島大学
    2024A1756
    排ガス中の低濃度CO₂回収資源化に有効な白金族フリー触媒のoperando XAFS-DRIFTS測定 前野 禅 工学院大学
    2024A1855
    ポリエチレンテレフタレート・ポリフェニレンサルファイド繊維の分子量および延伸倍率が引張変形時のフィブリル状階層構造変化に及ぼす影響 冨澤 錬 信州大学
    2024A1925
    微分位相Ⅹ線マイクロCTを用いた毛髪内空隙に対する充填物質の物性と充填効果の相関解析 武田 基希 (株)ミルボン
    2024A1932
    Ga添加Nd-Fe-B焼結磁石の熱処理過程における副相生成、熱力学計算、磁気特性の相関解明 石上 啓介 東北大学
    2024A1961
    鋼材中Mo炭化物の高エネルギー分解能XAFS分析 宮澤 徹也 (株)神戸製鋼所


    附録 “SPring-8/SACLA利用研究成果集 Section B”より転載

    Volume 12 No.3 (https://www.jstage.jst.go.jp/browse/springresrep/12/3/_contents/-char/ja
    2018A1541
    ゴム中粒状物の赤外顕微分光マッピング測定(3)
    DOI 10.18957/rr.12.3.147
    丸山 隆之 (株)ブリヂストン
    2018A1800
    紫外線によるポリプロピレンの劣化と高次構造
    DOI 10.18957/rr.12.3.151
    星川 晃範 茨城大学
    2020A1634
    X線CT法によるグリース中増ちょう剤の形態、分散状態に関する研究
    DOI 10.18957/rr.12.3.156
    木村 信治 ENEOS(株)
    2022A1672
    硬X線光電子分光法による電位制御下鉄鋼表面状態分析(2)
    DOI 10.18957/rr.12.3.161
    土井 教史 日本製鉄(株)

    Volume 12 No.4(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/springresrep/12/4/_contents/-char/ja
    2018B1579
    ゴム中粒状物の赤外顕微分光マッピング測定(4)
    DOI 10.18957/rr.12.4.211
    丸山 隆之 (株)ブリヂストン
    2018B1582
    ゴム中不均一構造のX線位相差CT観察(2)
    DOI 10.18957/rr.12.4.214
    丸山 隆之 (株)ブリヂストン
    2018B1758
    電解析出法により作製した純Ni/Ni合金多層膜中の引張変形中における応力分配挙動の測定
    DOI 10.18957/rr.12.4.217
    足立 大樹 兵庫県立大学
    2019A1615
    ゴム中粒状物の赤外顕微分光マッピング測定(5)
    DOI 10.18957/rr.12.4.221
    丸山 隆之 (株)ブリヂストン
    2020A1611
    添加剤により誘起される毛髪ミクロ構造変化のマイクロビームSAXS解析
    DOI 10.18957/rr.12.4.224
    磯﨑 勝弘 京都大学
    2020A1771
    鉄上に形成するウスタイト皮膜の相変態に伴う皮膜中の応力変化挙動 III
    DOI 10.18957/rr.12.4.227
    林 重成 北海道大学
    2020A1817
    鉄上に形成するウスタイト皮膜の相変態に伴う皮膜中の応力変化挙動 IV
    DOI 10.18957/rr.12.4.230
    林 重成 北海道大学
    2021A1549
    平板状光学・電子デバイス用材料の鏡面加工における破砕層の評価
    DOI 10.18957/rr.12.4.243
    矢代 航 東北大学

    Volume 12 No.5(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/springresrep/12/5/_contents/-char/ja
    2013B1295
    ポリマーナノコンポジットの時空間階層構造の解析
    DOI 10.18957/rr.12.5.329
    増井 友美 住友ゴム工業(株)
    2017B1632
    宇宙環境に曝露したカーボンナノチューブの HAXPES による電子構造変化の観察
    DOI 10.18957/rr.12.5.333
    人見 尚 (株)大林組
    2021A1636
    放射光 X 線ラミノグラフィーを用いた Zn 系めっき上腐食生成物の非破壊観察
    DOI 10.18957/rr.12.5.344
    吉住 歩樹 日本製鉄(株)


    附録Ⅱ 「成果公開優先利用」(産業分野)課題(~2021A),「先進技術活用による産業応用課題」(2019A ~ 2020A)の登録済み成果


    発 行 日: 令和 7 年 2 月 20 日
    編集・発行: 公益財団法人 高輝度光科学研究センター



    「令和6年度 SPring-8 一般課題(産業分野)実施報告書 (2024A)」送付を希望される方は、 連絡先(氏名,所属,〒住所,E-mail)をご記入の上、事務局 support@spring8.or.jp までE-mailでご連絡ください。