1. はじめに
2. 課題募集制度の概要
3. 成果公開の考え方
4. 実施状況
5. 産業利用分野の利用動向
6. 産業利用促進への課題
7. 報告書の採録対象
8. 報告書
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平成26年度(2014A期)より新たな領域指定型重点課題として、これまで放射光利用が少なかった産業分野のSPring-8利用の拡大を目指して産業新分野支援課題の募集を開始した。本報告書は2015A期の産業利用分野における課題実施状況の報告を目的として、2015A期に実施した一般課題(産業利用分野)と産業新分野支援課題のうちSPring-8利用研究成果集としての審査を行わなかった課題の報告書を収録したものである。
- 一般課題(産業利用分野)
一般課題(産業利用分野)の課題とは、課題申請の際に産業利用分野(I)での課題審査を希望した成果非専有の一般課題(課題審査は課題審査委員会産業利用分科会が行う)である。これまでは一般課題(産業利用分野)への申請は、申請者の所属機関を問わずに認めていたが、2015A期からは実験責任者もしくは共同実験者に民間企業もしくは、それに準じる機関に所属する者が含まれていることを申請要件とした。民間企業に準ずる機関とは、民間企業からの委託による試験・研究・開発を事業に含んでいる機関と定義している。また、地方自治体が設置している公設置試験場や地方独立行政法人等(○○県工業技術センター)は、民間企業に準ずる機関から除外している。なお、民間企業に所属する者が産業利用分野以外の分野に申請した課題は一般課題(産業利用分野)としては扱わない。一般課題(産業利用分野)の募集は他分野の一般課題と同様に、年2回の課題募集期間において全ての共用ビームラインへの申請が可能である。一般課題(産業利用分野)に特徴的な制度は以下の6項目である。
a) 産業利用ビームラインI(BL19B2)、II(BL14B2)、III(BL46XU)は半期ごとに前半を1期、後半を2期とした2回の課題募集を行う(年4回課題募集を実施)。1期と2期の両方で利用実験を行いたい場合は、継続的な研究内容の課題であってもその都度、新規課題として応募することが必要である。なお2013A期よりこれらのビームラインでは成果非専有の一般課題は、審査希望分野が産業利用分野である一般課題(産業利用分野)のみとした。これらのビームラインを指定した申請であるものの、審査希望分野が他分野の課題は申請者の希望にかかわらず産業利用分野で審査する。
b) 新規利用拡大の観点から課題審査において利用経験を考慮する。
c) 民間企業利用拡大の観点から課題審査において所属機関を考慮する。
d) 課題実施後約2~4か月以内に所定の書式の産業利用課題実施報告書を提出する。なお、この報告書はSPring-8利用研究成果集として審査を受けることも可能である。
e) 全採択課題に担当コーディネーターを配置する。
f) 科学技術的妥当性に関する審査は
(1)産業基盤技術としての重要性および発展性
(2)社会的意義および社会経済への寄与度の観点を重視して実施する
に重点をおいて実施する。
- 産業新分野支援課題
「産業新分野支援課題」を領域指定型の重点研究課題として、平成25年9月24日に指定した。その狙いは以下のとおりである。
これまでの産業利用促進の取り組みにより、一部の産業分野ではSPring-8の放射光利用が普及した一方、経済のグローバル化を反映して国内の産業構造も大きく変化し、新しい産業の創生をもたらすような研究開発が必要になっている。そこで、新産業分野の研究開発を促進するため、SPring-8で放射光利用に新規に取り組む産業分野の課題に重点的な支援を行う産業新分野支援課題を実施する。
2-1) 募集の対象
課題の目的に沿って、SPring-8での放射光利用実績の少ない産業分野の研究開発に関する課題を募集の対象とする。該当する産業分野の例として食品・食品加工、農林水産物、建設資材、金属加工、鉱物資源が挙げられるが、この限りではない。例示された分野に該当しない場合は、課題申請の際に放射光利用実績の少ない産業分野であることの説明が求められる。なお、一般課題(産業利用分野)のような実験責任者及び共同実験者の所属機関に関する要件は設定しない。
2-2) 対象ビームライン、シフト数割合、及び募集
産業利用ビームラインI(BL19B2)、II(BL14B2)、III(BL46XU)を対象に、ユーザー実験に供するビームタイムのうち20%以内(施設留保を含めたユーザータイムの16%以内)を配分する。
募集は一般課題と同時期に半期2回行う。なお、1期募集において採択された通期課題の2期分のシフト数も含めた合計シフト数が半期を通じたビームタイムの上限に達した場合は2期に募集を行わない。
2-3) 通期課題
1期、2期の両方で利用実験を行いたい場合は、その都度新規課題としての応募が必要であるが、継続的・計画的な実施により一層の成果創出が期待される課題は、“通期課題”とし1期応募の折に2期分のシフト数も含めた申請を受付ける。なお、2期は通期課題の募集は行わない。
2-4) 審査
一般課題(産業利用分野)に先んじて課題審査委員会産業利用分科会が審査を行う。なお、産業新分野支援課題として不採択となった課題は、自動的に一般課題(産業利用分野)の課題として、他の一般課題と一緒に改めて審査される。産業新分野支援課題においては一般課題(産業利用分野)の観点に加えて研究対象がSPring-8での放射光利用の新規な産業分野に該当するかどうかも含めて審査する。
2-5) 報告
WEBより提出するビームタイム利用報告書、利用実験課題報告書に加えて課題実施後約2~3か月以内に所定の書式の産業新分野課題実施報告書を提出する。なお、この報告書はSPring-8利用研究成果集として審査を受けることも可能である。
成果の公開については、産業新分野支援課題、一般課題(産業利用分野)ともに他の成果非専有の一般課題と同様に学術誌上への論文掲載(博士論文も含む)もしくはSPring-8利用研究成果集への採録による成果公開が求められる。この産業利用課題実施報告書及び産業新分野支援課題実施報告書の提出は成果の公開とは認定されないが、これらの報告書は著者からの申し出によりSPring-8利用研究成果集としての審査を受けることが可能である。SPring-8利用研究成果集としての審査を受けない実施報告書は、JASRIコーディネーター等による校閲を経て課題実施期が終了して約6か月後に出版・公開されるが、それ以外はSPring-8利用研究成果集としての審査終了後に公開される。
なお、平成27年度2015A期の一般課題(産業利用分野)及び産業新分野支援課題の実施報告は、平成28年9月に開催予定の「第13回SPring-8産業利用報告会」等で口頭及びポスター形式での報告を予定している。
以下に平成27年度2015A期の産業新分野支援課題、及び一般課題(産業利用分野)の応募・採択結果を表1、表2にまとめる。
- 応募・採択結果 産業新分野支援課題
表1.応募時期及び研究機関別課題応募・採択結果募集時期 機関分類 応募数採択数*採択率(%)第1回募集学官7571.4産業界44100.0合計11981.8第2回募集学官4375.0産業界100.0合計5360.0総計161275.0
産業新分野支援課題の第1期の応募数は募集を開始した2014A第1期の4件から大幅に増加して11件となり、本課題に対する利用者の認知度の向上を示すものと考えられる。2014A第1期、2014B第1期ともに学官からの応募された課題は全て採択されていたが、今期は2課題が不採択となった。一方で、産業界が応募した4課題はすべてが採択され、制度開始以来、産業界の応募課題の採択率が学官応募課題の採択率をはじめて上回った。2015A第2期は2014A、2014B期よりも応募がやや少なく、産業界、学官それぞれ1課題が不採択となったが、いずれの課題も一般課題として採択された。2015A第1期、第2期ともに採択課題の半数がこれまで利用が少なかった食品分野の課題で、産業新分野支援課題の制度は産業分野の新規開拓に有効に機能していると考えられる。
- 応募・採択結果 一般課題(産業利用分野)
表2.応募時期及び研究機関別一般課題応募・採択結果募集時期 機関分類 応募数*採択数採択率(%)第1回募集 学官433479.1産業界292172.4合計725576.4第2回募集 学官14750.0産業界191157.9合計331854.5総計1057369.5
一般課題(産業利用分野)は応募数が105課題(12条課題を含めると117課題)で2014A期の応募数138課題(12条課題を含む)から15%程度減少した。特に2015A第1期における産業界からの応募の減少が大きく2014A期よりも10件(約15%)の減少に加えて、採択率が2014A第1期の約90%から約72%にまで低下したために採択課題数は21件と2014A第1期の60%にとどまった。2015A第2期の応募数は2014A第2期の約10%減の33件であったが、産業界の応募数は2014A第2期よりも若干増加して採択数も2014A第2期の7課題から11課題に増えたものの2015A期の産業界課題の全採択数は、2014A期の42課題よりも大幅に少ない32課題となった。後述のとおり、成果非専有課題から成果専有課題への移行が産業界からの応募課題数減少の一因と考えている。また、産業界課題の2015A第1期の採択率低下はBL27SUやBL46XUへの応募課題の採択率が低かったことを反映している。BL46XUはBL19B2、BL14B2と比較して測定自動化による高効率化が遅れていることに加えて、高輝度X線イメージングやマイクロビームX線回折等の課題を新たに受け入れるようにしたことが採択率の低下を招いた。
一方、BL27SUの低採択率は産業界が軟X線利用への興味・関心が高まったことを示し、それ自身は歓迎すべきことであるがSPring-8での利用資源が限られていることから産業界による軟X線域の利用を進めるためには他の放射光施設との連携が必要になると考える。 一方、産業界の課題と同様に学官からの応募課題も減少しているが、前述のとおり2015A期から民間企業所属者を実験体制に含むことを一般課題(産業利用分野)への申請要件に追加したことが一因と考えている。ただし、一般課題(産業利用分野)の実験責任者に対して平成27年11月2日から27日までの期間に行ったアンケート(回答率60%)では、上記の申請要件追加に否定的な意見は全体の5%で大多数の利用者から理解を得られていることがわかった。
- SPring-8利用研究成果集としての審査
前述のとおり2011B期より成果公開の扱いが変更になったため、実験責任者の希望に応じて重点産業利用報告書をSPring-8利用研究成果集として査読審査を受けて公開文書として扱うことも可能とした。産業新分野支援課題及び産業利用分野の一般課題も同様で、SPring-8利用研究成果集として審査を受ける公開文書とすることができる。平成28年1月15日の時点で実施報告書作成対象84課題のうち20課題がSPring-8利用研究成果集としての審査を希望している。公開は査読審査が終了し成果審査委員会での承認後となるため、これら20課題の報告書はここには採録されない。
-
1)産業分野ごとの動向
図1は、産業利用分科会で審査を経て採択された成果非専有課題実施件数の推移である。2014A期以降は産業新分野支援課題と一般課題(産業利用分野)の和、2012A期から2013B期までは重点産業化促進課題と一般課題(産業利用分野)の和、2011B期以前は重点産業利用課題と一般課題(産業利用分野)の和であるが、2014A期とほぼ同じ分布となった。敢えて違いを挙げるとすれば、エネルギー分野(EL)での学官課題と素材分野(MA)での産業界課題の減少であるが、有意な変化であるのか一時的なものなのか判断できない。
図1. 産業利用分野における成果非専有課題実施件数
2)民間企業の課題実施動向
図2は共用ビームラインにおける民間企業の課題実施状況の推移を課題種ごとに示している。毎年A期はB期よりも実施課題数が少ない傾向があり、2015A期は2014A期の123課題とほぼ同じ116課題であった。その内訳は成果専有課題は2014A期と同じ72課題である一方、それ以外の課題は成果非専有の一般課題を中心に51課題から44課題と若干減少した。
図2. 民間企業による共同利用研究実施課題の課題分野別推移
図3は2015A期共同利用研究実施課題(共用ビームラインで実施した課題)を所属機関、専有/非専有の別でその割合を示している。2015A期は2014A期より供給ビームタイムが増えたことを反映して共用ビームラインでの全実施課題数は2014A期の624課題から2015A期は674課題に増加する一方、前述のとおり産業界の実施課題数は2014A期並みにとどまったことで、民間企業に所属する実験責任者の課題数の割合は17.2%となり、2014A期の19.7%より大幅に減少した。これは、産業界のSPring-8共用ビームライン利用需要の飽和を意味するようにも思えるが、一方でBL46XUやBL27SUなど特定のビームラインでの採択率が低いことから、産業界利用者ニーズと施設が提供している放射光利用技術との乖離の顕在化を示すものと考えている。また、利用申し込みを随時受付ている測定代行においては、ビームタイム配分ができないために申請を諦めてもらう状況も発生していることから、現行の利用制度が産業界利用者のニーズの変化に対応できていないことの現れと思われる。
図3.2015A期 共同利用研究実施課題における民間企業の実験責任者の割合
3)民間企業の共用ビームライン利用状況
2015A期におけるビームラインごとの民間企業による利用件数を図4(a)に示す。一般課題(産業利用分野)及び成果専有課題は、産業利用ビームラインI、II、IIIでの実施が他のビームラインよりも著しく多いのはこれまでと同様である。また、産業利用I、IIビームラインにおいて測定代行を含む成果専有課題が一般課題(産業利用分野)及び産業新分野支援課題などの審査課題よりも実施件数が多くなるのもここ数年の傾向であるが、XAFS測定代行を実施しているBL14B2での測定代行の実施数が2014A期並みの16件で2013A期よりも大幅に減少したままである。更に、BL19Bの成果専有課題は2014A期よりも増加しているものの一般課題(産業利用分野)の実施課題が大きく減少した。これらは、前述のあいちシンクロトロン光研究センターの稼働の影響と考えている。
図4(b)は2008A期以降の民間企業による産業利用ビームラインI、II、IIIの利用割合の推移であり、産業界が利用するビームラインはこれら3本の産業利用ビームラインに集約されつつあることが読み取れる。この傾向は納得できるものであるが、これらのビームラインで実施できる放射光利用技術は限られている上、BL46XUは低採択率がつづいていることから必ずしも全面的に歓迎できるものではない。
図4(a).2015A期 利用技術分野別(ビームライン別)民間企業利用件数
図4(b).民間企業による産業利用ビームラインI、II、IIIの利用割合の推移
5.産業利用分野の利用動向でも記したとおり、民間企業の実施課題の成果専有へ移行と3本の産業利用ビームラインへの集約は、これまでに産業利用ビームラインで行ってきた機器整備や利用制度設計が適切に行われたことを示すものと考えられる。しかしながら、2013A期以降は供給ビームタイムに多少の変動があってもA期に民間企業が共用ビームラインで実施する課題数が120課題程度とほぼ一定であるにもかかわらず、BL46XUやBL27SUでは多数の不採択課題が発生するとともに、ビームタイムが確保できず測定代行に応じられない事例がBL19B2を中心に複数発生している。これらは、現行の制度や装置・技術の整備が産業界利用者の需要への対応が不十分であることを示している。
測定代行の需要に応えるためには、測定代行を対象としたビームタイムの先行的確保などの利用制度見直しの検討が必要と考えられる。産業利用ビームラインで唯一の挿入光源ビームラインのBL46XUで発生している多数の不採択課題へは、測定の自動化・効率化の推進だけでは対応できないと思われる。最近、BL46XUは従来から行われているHAXPESや多軸回折装置を用いた測定に加えてマイクロビーム回折やX線イメージングなど多様な実験が行われ、幅広い産業分野で利用需要が高まっていることから、他の挿入光源ビームラインの利用等によって供給ビームタイムを増やさない限り解決が難しいと考えている。BL27SUの低採択率の原因も供給ビームタイムの不足が原因であるが、SPring-8内での解決は困難である。軟X線域の利用実験については他の放射光施設との連携を進めることが有効と考える。
平成28年1月15日の時点で課題のうち20課題が利用研究成果集としての審査を希望している。これ以外の64課題の産業新分野支援課題実施報告書と産業利用課題実施報告書を採録している。また、追加掲載として、2012B期1課題、2013A期1課題、2014B期3課題も掲載している。また、SPring-8利用研究成果集として新たに採択、公開された課題も附録としてSPring-8利用研究成果集より転載して採録している。
SPring-8利用研究成果集 Vol 3 No.2 (http://user.spring8.or.jp/resrep/?cat=19)
「平成27年度 SPring-8産業新分野支援課題・一般課題(産業分野)実施報告書(2015A)」送付を希望される方は、
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